帰省したら、初恋の人に会った。

実家に帰ってきています。

お盆なので。

久しぶりに地元で過ごしています。

そんな僕のところに。

こいこと。編集部からメールが届きました。

要約すると。

「お盆に出す記事がありません。誰か書けませんか」

という内容でした。

……。

僕、帰省中なんですけど。

もちろん。

僕宛てに「書いてください」と言われたわけではありません。

書ける人がいたらお願いします、というメールです。

だったら。

帰省中の僕は対象外だと思います。

そう判断して。

スマホを閉じました。

五分くらいして。

もう一回見ました。

誰か書くでしょう。

閉じました。

また見ました。

……誰も書かなかったら、どうするんでしょう。

こういうところなんですよね。

僕が人から「断れない」と言われるのは。

まだ誰にも頼まれていないのに。

勝手に断れなくなっています。

というわけで。

実家でノートパソコンを開きました。

ただ。

急に記事を書こうにも、企画なんて考えていません。

せっかく帰省しているのに。

恋愛について真面目に分析する気分でもない。

何を書こうかな、と考えて。

今日あったことなら書けるかもしれないと思いました。

今日。

地元で。

初恋の人に会いました。

約束していたわけではありません。

同窓会でもありません。

本当に、偶然です。

そして。

何かが始まったわけでもありません。

連絡先すら交換していません。

ただ。

思っていたより。

いろいろなことを思い出しました。

なので。

今日は、その話を書こうと思います。

お盆の記事がないらしいので。

ちょうどいいでしょう。

たぶん。

目次

地元で知っている顔を見つけた

今日の昼過ぎ。

ちょっと買い物に出ました。

実家にいると。

なぜか細かい買い物を頼まれます。

せっかく帰ってきた息子を。

便利な買い出し要員だと思っている可能性があります。

まあ。

断れないので行きますけど。

外に出たら。

ものすごく暑かったです。

お盆の昼間なんて。

用事がなければ歩くものじゃないですね。

地元の駅前まで行って。

頼まれたものを買って。

せっかくだから少し歩いて帰ろうと思いました。

久しぶりに歩く地元は。

知っているようで、知らない街になっていました。

昔あった店がなくなっていたり。

知らないマンションが建っていたり。

逆に。

昔からある店が、そのまま残っていたり。

こういうの。

帰省すると毎回やってしまいます。

「ここ、前は何だったっけ」

と考えるやつ。

だいたい思い出せません。

そんなことを考えながら歩いていたら。

前から来る女性が。

なんとなく気になりました。

知っている人に似ている。

でも。

誰だったか、すぐには出てこない。

地元なので。

こういうことはたまにあります。

同級生かもしれない。

友達の妹かもしれない。

昔のバイト先の人かもしれない。

僕も相手も。

一度、そのまますれ違いました。

その瞬間。

思い出しました。

僕は立ち止まりました。

振り返ると。

向こうも振り返っていました。

少しだけ。

お互いに確認するような間があって。

彼女が先に笑いました。

「リク?」

その声を聞いて。

間違いないと思いました。

昔。

僕が初めて好きになった人でした。

何年ぶりなのか。

その場ですぐには計算できませんでした。

というか。

久しぶりに初恋の人と会って。

最初に年数を計算できるほど、僕は冷静ではありませんでした。

「久しぶり」

と言ったら。

「ほんと久しぶり」

と返ってきました。

それだけです。

映画だったら。

ここで少しくらい風が吹くのかもしれません。

実際は。

セミがものすごく鳴いていました。

暑いし。

僕は買い物袋を持っているし。

彼女も普通に買い物の途中だったみたいです。

あまりにも。

普通の再会でした。

でも。

目の前にいる彼女を見ているうちに。

少し不思議な感じがしてきました。

知っている人なのに。

僕の知っている人とは。

少し違って見えたんです。

初恋の人は、初恋の人ではなくなっていた

少しだけ。

その場で話しました。

「お盆で帰ってきたの?」

「うん。そっちは?」

「私も。昨日から」

そんな。

久しぶりに会った同級生同士の、ごく普通の会話です。

今どこに住んでいるとか。

仕事は何をしているとか。

共通の知り合いはどうしているとか。

話題には困りませんでした。

でも。

話しながら僕は。

少し変な感覚になっていました。

目の前にいるのは。

間違いなく、あの頃好きだった人です。

笑うと少し目が細くなるところとか。

話している途中で髪を触る癖とか。

そういうところは。

なんとなく覚えていました。

「ああ、そうだった」

と。

ずいぶん長いこと開けていなかった引き出しを。

一つずつ開けていくような感じでした。

でも。

当然なんですけど。

彼女は、あの頃の彼女ではありません。

大人になっていました。

見た目だけではなく。

話し方も。

雰囲気も。

僕の知らない時間を、ちゃんと過ごしてきた人でした。

考えてみれば。

当たり前なんですよね。

僕が彼女に会っていなかった間も。

彼女の人生は普通に続いていたわけですから。

でも。

僕の記憶の中にいる彼女は。

ずっと昔のままでした。

初めて好きになった頃の顔で。

初めて好きになった頃の声で。

初めて好きになった頃の場所にいる。

勝手なものです。

本人はとっくに先へ進んでいるのに。

僕の頭の中では。

ずっと歳を取っていなかった。

だから。

目の前で普通に大人になった彼女と話していることが。

なんだか不思議でした。

もちろん。

がっかりしたわけではありません。

むしろ。

素敵な人になったな、と思いました。

……こう書くと。

上から評価しているみたいですね。

そういう意味ではないです。

ただ。

昔好きだった人が。

知らない時間を生きて。

その先で、ちゃんと素敵な大人になっていた。

それが。

少し嬉しかったんです。

そして。

もう一つ気づきました。

僕がずっと「初恋の人」と呼んでいたのは、今ここにいる彼女ではなく、僕の記憶の中にいる彼女だったんだと思います。

目の前にいるのは。

その続きを生きてきた、一人の女性です。

そう思ったら。

昔の彼女と。

今の彼女が。

少しずつ重なって。

少しずつ離れていくような。

変な感じがしました。

ただ。

そんなことを考えながら話していた僕も。

別に。

ずっと冷静だったわけではありません。

昔と同じような顔で笑われたとき。

少しくらいは。

ドキッとしました。

そこは。

正直に書いておこうと思います。

少しくらい、ドキッとはしました

正直に書きます。

久しぶりに初恋の人に会って。

何とも思わなかった。

ということはありませんでした。

少しくらいは。

ドキッとしました。

「少しくらい」と書いているあたり。

まだ格好をつけようとしている気もしますけど。

まあ。

そこは許してください。

でも。

そのドキッとした感じが。

昔の「好き」と同じだったかというと。

たぶん、違います。

話している途中で。

彼女が笑いました。

その笑い方が。

昔とほとんど変わっていなかったんです。

それを見た瞬間。

急に。

昔のことを思い出しました。

こういう笑い方だったな、と。

好きだった頃も。

この顔を見ていたんだな、と。

忘れていたはずなのに。

ちゃんと残っているものですね。

なんというか。

昔よく聴いていた曲を。

たまたま街で耳にしたときに似ています。

もう何年も聴いていないのに。

イントロが流れた瞬間。

次のメロディーが分かる。

歌詞まで思い出せる。

そして。

その曲を聴いていた頃の景色まで。

一緒に出てくる。

そんな感じでした。

だから。

これは。

また彼女を好きになったということなのかな。

と。

一瞬だけ考えました。

恋愛の記事を書いている人間なので。

こういうとき。

自分の感情まで分析し始めるのは。

あまりよくない職業病だと思います。

でも。

少し考えてみて。

やっぱり違うと思いました。

今の彼女を。

僕はほとんど知りません。

何が好きなのか。

休日に何をしているのか。

どんなことで笑って。

どんなことで悩むのか。

何も知らない。

知っているのは。

ずっと昔の彼女です。

それなのに。

昔と同じ笑い方をひとつ見ただけで。

心が少し動いた。

だったら。

僕がドキッとした相手は。

今の彼女だけではなかったのかもしれません。

昔、彼女を好きだった自分まで、一緒に思い出したんだと思います。

好きな人を見つけただけで。

少し嬉しかった頃。

話せただけで。

その日一日、機嫌がよかった頃。

今考えると。

ずいぶん単純です。

でも。

悪くないな、とも思います。

大人になってからの恋愛は。

もう少しいろいろ考えますから。

相手との相性とか。

タイミングとか。

距離とか。

この先どうなるとか。

考えることが増えました。

あの頃は。

好きな人がいる。

それだけで。

かなり大きな出来事だった気がします。

だから。

今日のあの一瞬は。

初恋が戻ってきたというより。

昔の自分が。

少しだけ戻ってきた。

そんな感じだったのかもしれません。

そう考えたら。

僕がずっと特別だと思っていた「初恋」というものも。

彼女一人だけでできているわけではないような気がしてきました。

僕が好きだったのは、彼女だけだったんだろうか

彼女と別れて。

また一人で歩き始めました。

相変わらず暑いし。

セミもうるさいし。

買い物袋も重い。

さっきまで初恋の人と話していたとは思えないくらい。

いつもの地元の道でした。

でも。

歩きながら。

昔のことを、いろいろ思い出しました。

彼女のことだけではありません。

学校のこと。

友達のこと。

帰り道のこと。

当時よく行っていた店のこと。

夏休みのこと。

今となっては。

何がそんなに面白かったのか分からないようなことで。

毎日笑っていたこと。

そういうものが。

彼女の記憶についてくるように。

次々と出てきました。

それで。

ふと思ったんです。

僕が初恋を特別に覚えているのは。

本当に。

彼女だけが理由なんだろうか、と。

もちろん。

彼女のことは好きでした。

そこは間違いありません。

かなり好きだったと思います。

好きな人が学校に来ている。

それだけで。

学校へ行く理由が一個増えるくらいには。

好きでした。

話せた日は嬉しかったし。

話せなかった日は。

なんとなく一日が物足りなかった。

たまたま帰る時間が一緒になっただけで。

今日はいい日だったと思えた。

今考えると。

ずいぶん燃費のいい恋愛です。

ほとんど何も起きていないのに。

勝手に一喜一憂できる。

でも。

そんなふうに誰かを好きだった自分のことも。

僕は一緒に覚えているんですよね。

好きな人から連絡が来ただけで。

何度も読み返したり。

返信を考えて。

書いて。

消して。

また書いて。

結局。

最初に考えた文章とほとんど変わらないものを送ったり。

返信が来るまで。

何度も携帯を確認したり。

今なら。

もう少し普通にできます。

たぶん。

……いや。

そこはあまり自信ありません。

恋愛になると。

人間、そんなに成長しない部分もありますから。

ただ。

あの頃は。

一つ一つのことが。

今よりずっと大きかった気がします。

好きな人と話せた。

目が合った。

名前を呼ばれた。

そんなことで。

一日分の感情が動いた。

彼女を好きだった記憶の中には。

そういう昔の僕が。

ずっと一緒にいます。

だから。

初恋が特別なのは、初めて好きになった相手だからだけではないのかもしれません。

その人を好きだった頃の自分まで、丸ごと残っているからなんじゃないでしょうか。

彼女を思い出すと。

昔の街が出てくる。

昔の友達が出てくる。

昔の自分が出てくる。

全部まとめて。

僕は「初恋」と呼んでいたのかもしれません。

そう考えると。

今日。

彼女に会って少しドキッとした理由も。

なんとなく分かる気がしました。

僕は。

昔好きだった人に会っただけではなく。

昔の自分にも。

久しぶりに会ったんだと思います。

彼女から見た僕も、昔の僕ではない

そんなことを考えながら歩いていて。

もう一つ。

当たり前のことに気づきました。

僕はさっきから。

彼女を見て。

変わったな、とか。

大人になったな、とか。

昔と同じところもあるな、とか。

勝手にいろいろ考えていましたけど。

向こうから見た僕だって。

同じなんですよね。

彼女の記憶の中にも。

昔の僕がいる。

今より若くて。

今よりたぶん。

いろいろ分かっていなくて。

今より髪型も微妙だった僕が。

……そこは。

できれば忘れていてほしいです。

でも。

たぶん残っています。

僕が彼女の昔の笑い方を覚えていたように。

彼女も。

僕の何かを覚えているのかもしれません。

今日話している途中。

彼女に。

「変わってないね」

と言われました。

僕は。

「そうかな」

と答えました。

でも。

内心では。

いや。

結構変わったと思うけどな。

と思っていました。

仕事も変わった。

住んでいる場所も変わった。

付き合う人も変わった。

いろいろなことがあって。

昔より分かるようになったこともあります。

逆に。

昔より分からなくなったこともあります。

だから。

あの頃の僕と。

今の僕は。

同じ人間ではあるけれど。

やっぱり同じではありません。

それなのに。

久しぶりに会った人から。

「変わってないね」

と言われる。

不思議ですよね。

たぶん。

彼女が見つけたのは。

今の僕の中に残っている。

昔の僕なんだと思います。

話し方なのか。

笑い方なのか。

何かの癖なのか。

自分では分かりません。

でも。

僕が彼女の中に昔の彼女を見つけたように。

彼女も僕の中に。

昔知っていた僕を見つけた。

そういうことなのかもしれません。

考えてみると。

少し面白いです。

僕たちはそれぞれの記憶の中に、もうどこにもいない相手を一人ずつ持っているのかもしれません。

昔の彼女は。

僕の記憶の中にいる。

昔の僕は。

彼女の記憶の中にいる。

でも。

今日会った僕たちは。

そのどちらでもない。

それぞれ知らない時間を過ごして。

たまたま今日。

同じ地元に帰ってきて。

偶然会った。

それでいいんだと思います。

昔の彼女を。

今の彼女に重ねなくてもいい。

僕も。

昔の自分に戻らなくていい。

懐かしいものは。

懐かしいままでいい。

そう思ったら。

初恋の人との再会という。

なんとなく大げさな響きの出来事が。

少しだけ普通のことに思えてきました。

実際。

僕たちの再会は。

本当に普通に終わりました。

ドラマみたいなことは。

最後まで何も起きませんでした。

「またね」と言って、それだけだった

彼女と話していた時間は。

たぶん。

そんなに長くありません。

十分とか。

十五分とか。

そのくらいだったと思います。

昔の知り合いの話をして。

今どこにいるのかを話して。

「懐かしいね」

なんて言って。

そのうち。

どちらからともなく。

そろそろ行こうか、という空気になりました。

彼女にも予定があったでしょうし。

僕には。

買って帰らないといけないものがありました。

初恋より。

頼まれた買い物です。

大人になるって。

たぶん、こういうことなんでしょう。

それで。

「じゃあ、またね」

と彼女が言いました。

僕も。

「うん。また」

と答えました。

連絡先は交換しませんでした。

今度ご飯でも、という話にもなりませんでした。

次にいつ帰ってくるのかも。

聞きませんでした。

別に。

避けたわけではありません。

聞こうと思えば聞けたし。

連絡先だって。

交換しようと思えばできたと思います。

でも。

なんとなく。

その必要がない気がしました。

今日。

偶然会って。

久しぶりに話して。

元気そうだと分かった。

それで。

十分だったんです。

昔の僕だったら。

信じられないと思います。

せっかく好きな人に会えたのに。

連絡先も聞かずに帰るなんて。

何をやっているんだ、と。

たぶん。

かなり怒られます。

昔の自分に。

でも。

今の僕は。

それでよかったと思っています。

もう一度。

何かを始めたいわけではなかったから。

彼女が向こうへ歩いていって。

僕も反対側へ歩きました。

振り返ったか。

ですか。

振り返っていません。

……。

こういうとき。

振り返った方が記事としては綺麗なんでしょうね。

でも。

本当に振り返っていないので。

仕方ありません。

僕はそのまま。

買い物の続きをしました。

そして。

実家へ帰りました。

それだけです。

でも。

「それだけ」で終われたことが、なんとなくよかった気がします。

初恋の人だからといって。

再会したら、何かが始まらなくてもいい。

昔好きだったからといって。

今も特別な関係にならなくてもいい。

思い出は思い出のまま。

今の彼女は今の彼女として。

元気そうでよかったな、と。

それくらいでいい。

たぶん。

昔の僕には分からなかった。

今の僕だからできる再会だったんだと思います。

そして夜。

実家でスマホを見たとき。

編集部から届いていたメールを。

また思い出しました。

お盆の記事が一本できました

というわけで。

今。

実家でこの記事を書いています。

さっきまで。

家族がテレビを見ていました。

台所からは。

何かを片づけている音がしています。

外では。

まだ時々、車が通ります。

昔から知っている家で。

昔から知っている音を聞きながら。

今日会った、昔好きだった人のことを書いています。

なんだか。

お盆っぽいですね。

最初は。

編集部からメールが来たから。

何か書かないといけないと思っただけでした。

いや。

正確には。

僕が書かないといけないなんて。

誰も言っていません。

勝手に書き始めただけです。

それなのに。

気づいたら。

思っていたより長くなりました。

初恋の人に会ったからといって。

何かが始まったわけではありません。

連絡先も交換していません。

次に会う約束もしていません。

たぶん。

次に会うのがいつなのかも分かりません。

もう会わない可能性だってあります。

でも。

今日会えてよかったと思っています。

彼女が元気そうだったから。

それもあります。

ただ。

それ以上に。

昔の自分が。

ちゃんといたことを思い出せたから。

好きな人と話せただけで嬉しかった自分。

連絡が来ただけで何度も読み返していた自分。

たった一人のことで。

一日の気分が簡単に変わっていた自分。

今思えば。

かなり面倒です。

でも。

嫌いではありません。

あの頃の僕が。

今の僕につながっている。

そんな当たり前のことを。

久しぶりに思い出しました。

初恋って、最初に好きになった人の記憶だけではなくて。

初めて誰かを好きになった自分の記憶でもあるのかもしれません。

だから。

何年経っても。

少し特別なんでしょうね。

別に。

戻りたいわけではありません。

今の方がいいです。

昔より。

できることも増えました。

分かることも増えました。

たぶん。

少しくらいは大人にもなりました。

でも。

たまに帰ってきて。

昔の自分を思い出すくらいなら。

悪くない気がします。

お盆ですし。

さて。

そろそろこの記事を編集部に送ります。

これで。

お盆の記事が一本増えました。

よかったです。

……。

ただ。

ここまで書いてから。

一つ気づきました。

僕。

帰省中なんだから。

普通に断ってもよかったんですよね。

そもそも。

頼まれてすらいませんでした。

来年は。

もう少し上手に断ろうと思います。

たぶん。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次