彼女の過去が気になる。知らなくていいのに、なぜ聞きたくなるんだろう

デートするカップル。男性は彼女の過去の恋愛が気になっている。

午後の編集部。

急ぎの仕事もひと段落して、なんとなく雑談が始まる時間。

ミユが飲み物を取りに立ち、ケンジはパソコンから目を離して伸びをする。ミカコはスマホを眺め、ワニオはなぜか机の上に置かれていた個包装のお菓子を裏返して原材料表示を読んでいた。

そんな中、ソウタがふと思い出したように口を開いた。

ソウタ:ねえ。みんなって、付き合ってる人の過去って気になる?

ミユ:過去?

ソウタ:うん。元彼とか元カノとか。何人と付き合ったとか、どんな人だったとか。

ミユ:……ソウタ君、何かあった?

ソウタ:いや、別に何もないよ。

ミカコ:その入り方で何もないことある?

ソウタ:あるんじゃない? ふと思っただけかもしれないし。

ケンジ:「かもしれない」って、自分のことなのに(笑)。

ソウタ:じゃあ仮にね。彼女がいたとして。

ミユ:はい。

ソウタ:その彼女が、前の彼氏と旅行に行ったことがあるとか。

ミユ:うん。

ソウタ:すごく好きだった人がいたとか。

ミユ:うん。

ソウタ:そういうのって、気にならない?

ミユ:……やっぱり何かあった?

ソウタ:だから仮の話だって(笑)。

ミカコ:まあいいわ。今日は仮の彼女について話しましょう。

ソウタ:なんか嫌な言い方だなあ。

ケンジ:でも分からなくはないよ。彼女の昔の恋愛が気になるってことでしょ?

ソウタ:そう。それ。

ミユ:私は逆に聞きたい。なんで気になるの?

ソウタ:それが分からないんだよね。

ミユ:分からないの?

ソウタ:知ったら嫌な気持ちになる気もする。でも知らないと、それはそれで気になる。

ミカコ:めんどくさ。

ソウタ:早いよ(笑)。

ケンジ:いや、でも男側としてはちょっと分かるなあ。

ソウタ:ほら。

ミカコ:仲間を見つけて嬉しそうにしない。

ワニオ:質問があります。

ミユ:はい、ワニオ。

ワニオ:その元彼は、現在も彼女の隣にいるのでしょうか。

ソウタ:いや。元彼なんだから、いないよ。

ワニオ:では現在ソウタさんの隣にいるのは?

ソウタ:だから僕の話じゃないって。

ワニオ:失礼しました。仮ソウタさんの隣にいるのは?

ミユ:仮ソウタさん(笑)。

ソウタ:……彼女じゃない?

ワニオ:なるほど。彼女は現在の彼氏と一緒にいる。しかし現在の彼氏は、そこにいない元彼のことを考えて苦しくなっている。

ミカコ:そう言われると、だいぶ無駄なことしてるわね。

ソウタ:でも、そういう理屈じゃないんだよ。

ワニオ:恋愛では、欠席者との戦いが発生するのですね。

ケンジ:ははは。でもそれ、案外いいところ突いてるかもしれない。

ソウタ:いや、まだ納得してないけどね。

ミユ:じゃあ聞いてみようよ。みんな、恋人の過去ってどこまで知りたい?

ミカコ:私は別に知りたくない。

ケンジ:俺は昔なら知りたかったかな。

ソウタ:やっぱり気になるよね。

ワニオ:私は恋愛遍歴より、なぜ人間が知ると苦しくなる情報を自分から収集するのかが気になります。

ミユ:確かに。そこから考えてみる?

ソウタ:うん。俺もそれ知りたい。

知りたい。

でも、知ったらたぶんモヤモヤする。

それなのに、なぜか聞きたくなる。

彼女の元彼、昔の恋、思い出の場所。

今日はそんな、少し格好悪くて、でも意外と無視できない「彼女の過去が気になる問題」について話してみることになった。

目次

知りたくない。でも、ちょっと知りたい

彼女の過去が気になりモヤモヤする男性。

ミユ:じゃあさ、ソウタ君は具体的に何が知りたいの?

ソウタ:うーん……何人くらいと付き合ったとか。

ミユ:知ってどうするの?

ソウタ:……どうもしない。

ミユ:じゃあ聞かなくてよくない?

ソウタ:そうなんだけどさ。

ミカコ:開始早々、詰んでるじゃない。

ケンジ:でも、そこなんだよな。聞いたところで何かできるわけじゃないのに、気になる。

ソウタ:そうそう。あと、どんな人だったとか。

ミユ:元彼が?

ソウタ:うん。年上だったのかとか、同い年だったのかとか。どんな仕事してたとか。

ミカコ:情報収集してどうすんのよ。

ソウタ:分からない(笑)。

ワニオ:元彼名鑑を作るのでしょうか。

ソウタ:作らないよ。

ワニオ:一代目、二代目と。

ミユ:歴代彼氏一覧(笑)。

ソウタ:そんなの見たら余計つらくなるって。

ミカコ:自分で集めようとしてたじゃない。

ソウタ:だから不思議なんだよ。見たくないのに、ちょっと見たい。

ケンジ:俺は若い頃、聞いたことあるな。

ソウタ:どこまで?

ケンジ:普通に。「前の彼氏ってどんな人だったの?」とか。

ミユ:へえ。ケンジさんも聞くんだ。

ケンジ:今はそんなに気にならないけどな。昔は気になった。

ソウタ:で、聞いてよかった?

ケンジ:いや。

ソウタ:即答だ(笑)。

ケンジ:だってさ。「優しい人だったよ」って言われても嫌じゃないか?

ソウタ:嫌だ。

ケンジ:「格好よかった」も嫌。

ソウタ:嫌だね。

ケンジ:かといって「最低な男だった」って言われたら、それはそれで「なんでそんな男と付き合ってたの?」ってなる。

ソウタ:なる。

ミユ:え、じゃあ何て答えれば正解なの?

ケンジ:ないんだよ。

ミカコ:最悪じゃん(笑)。

ミユ:自分から聞いてるのに?

ケンジ:そう。

ミユ:めんどくさ!

ソウタ:でも分かるなあ。

ミカコ:そっちで共感し合わないで。

ワニオ:つまり質問はしているものの、希望する回答が存在しないのですね。

ケンジ:そういうことになるね。

ワニオ:それは質問しない方がよいのでは。

ソウタ:正しいんだけどさあ。

ミユ:ワニオ、今日はずっと正論だね。

ワニオ:私も困っています。

ミカコ:本人も不本意だった(笑)。

ソウタ:あとさ。付き合った人数だけじゃなくて、どれくらい好きだったかも気にならない?

ミユ:それ聞くの?

ソウタ:直接「どれくらい好きだった?」とは聞かないよ。

ミユ:じゃあどうするの?

ソウタ:話してるとなんとなく分かることあるじゃん。「その人とは三年付き合ってた」とか、「結婚も考えてた」とか。

ケンジ:ああ。それは確かにちょっと来るな。

ソウタ:でしょ?

ミカコ:何が来るのよ。

ソウタ:なんていうか……急にその元彼が大きく見える。

ミユ:会ったこともないのに?

ソウタ:会ったことないから余計なのかも。

ケンジ:勝手に想像するんだよ。

ソウタ:そう。「三年も付き合ったんだ」とか、「結婚考えるくらい好きだったんだ」とか。

ミカコ:で、勝手に元彼を強敵に育てていくわけね。

ソウタ:強敵(笑)。でも、そんな感じかもしれない。

ワニオ:本人不在のままレベルが上がっていくのですね。

ミユ:最終的にめちゃくちゃいい男になってそう。

ケンジ:実際は朝起きないし、靴下脱ぎっぱなしだったかもしれないのにね。

ソウタ:そういう情報もセットで欲しいな。

ミカコ:だから集めるなって(笑)。

ミユ:でも女性側からすると、昔付き合ってた人の話をしただけで今の彼氏が勝手に落ち込んだら、ちょっと困るかも。

ソウタ:それはそうだよね。

ミユ:だって過去は消せないじゃん。元彼がいたなら、いたんだし。

ミカコ:しかも自分から聞いて落ち込まれたら、こっちはどうしようもない。

ソウタ:じゃあ、やっぱり聞かない方がいいのかな。

ケンジ:全部聞かないっていうのも不自然じゃないか? 長く付き合ってたら昔の話くらい普通に出るよ。

ミユ:それはそうか。

ケンジ:ただ、自然に知るのと、自分から掘りに行くのは違う気がする。

ワニオ:地面に埋まっているものを掘り出し、「埋まっていました」と落ち込むようなものでしょうか。

ミカコ:今日一番分かりやすい。

ソウタ:俺、ずっと穴掘ってるみたいになってるじゃん。

ミユ:仮ソウタ君がね。

ソウタ:そうだった。俺じゃなかった(笑)。

ミカコ:もう誰も信じてないわよ。

ソウタ:でもさ、恋愛遍歴だけならまだいいんだよ。

ミユ:まだあるの?

ソウタ:写真とか、プレゼントとか、思い出の場所とか。

ケンジ:ああ……。

ソウタ:そっちの方が嫌かもしれない。

ミカコ:はいはい。じゃあ次は、元彼の遺品整理ね。

ワニオ:元彼は亡くなっていません。

ミユ:そこ訂正するんだ(笑)。

元彼との思い出、どこまでなら平気?

女性の自宅。元彼との思い出の品がいくつか保管されている。

ミユ:元彼の遺品って言い方はともかく、写真とかプレゼントが残ってるのは気になる人いそう。

ソウタ:うん。もし自分に彼女ができたら、そこはちょっと気になると思う。

ミカコ:まだ彼女もいないのに、ずいぶん先まで心配してるのね。

ソウタ:予習だよ、予習。

ケンジ: いいじゃねえか。恋愛なんて本番になったら予習通りにいかねえけどな。

ソウタ:それ、予習する意味なくない?

ケンジ:ないかもな。

ワニオ:では、元彼の写真から検討しましょう。

ミカコ:なんで会議みたいに進めるのよ。

ワニオ:写真が一枚残っていた場合、どうなりますか。

ソウタ:一枚なら……まあ。

ミユ:平気?

ソウタ:スマホの昔の写真にたまたま残ってるくらいなら、消し忘れてるだけかもしれないし。

ミカコ:普通はそんなもんでしょ。何年分もある写真の中から元彼だけ探して全部削除する方が面倒よ。

ソウタ:でも、二人の写真だけまとめたアルバムが大事に残してあったら?

ミユ:あー。それはちょっと違うかも。

ケンジ:そりゃ俺だっていい気はしないな。「思い出だから絶対捨てたくない」まで言われたら、多少は引っかかる。

ソウタ:だよね。

ミカコ:でも「捨てて」って言う?

ケンジ:俺は言わない。

ソウタ:なんで?

ケンジ:捨てさせたところで、過去が消えるわけじゃねえだろ。

ミカコ:そういうこと。

ケンジ:ただまあ、目の前で毎晩眺めてたら話は別だぞ。「おいおい、俺いるぞ」くらいは言う(笑)。

ミユ:それは言っていいと思う(笑)。

ワニオ:写真そのものより、現在どのように扱っているかが重要なのでしょうか。

ミカコ:そうね。私はそっち。

ミカコ:昔の写真が残ってる、昔もらった物をまだ持ってる。それだけなら別にどうでもいい。

ソウタ:プレゼントも?

ミカコ:使える物なら使えばいいじゃない。

ソウタ:元彼にもらったネックレスとかでも?

ミカコ:物は物でしょ。

ソウタ:強いなあ。

ミユ:私は物によるかな。バッグとかなら普通に使っちゃうかも。

ソウタ:じゃあ指輪は?

ミユ:指輪は……ちょっと考える。

ケンジ:俺も指輪は嫌だな!

ミカコ:さっきまで格好いいこと言ってたのに。

ケンジ:いやいや、元彼にもらった指輪つけて俺とデートは嫌だろ(笑)。そこは理屈じゃねえよ。

ソウタ:分かる。

ミユ:男二人、急に意気投合した。

ワニオ:指輪には元彼成分が多く含まれているのでしょうか。

ケンジ:成分ってなんだよ(笑)。

ワニオ:バッグは許容され、指輪になると拒否反応が出ました。

ソウタ:なんだろうね。意味が強そうだからかな。

ミカコ:結局、物そのものじゃなくて、その物にどれだけ思い出を感じるかってことでしょ。

ミユ:あ、それなら分かる。

ソウタ:じゃあ場所は?

ミユ:場所?

ソウタ:例えば、初めて二人でデートした場所が、彼女が元彼とも何度も行ったところだったとか。

ミカコ:それは仕方なくない? 有名なデートスポットなんて、過去の恋人と行ったことある人いっぱいいるでしょ。

ソウタ:頭では分かるんだけど。

ケンジ:分かるぞ。東京タワーに元彼と行ったことがあるからって、東京タワーを撤去するわけにはいかねえからな。

ミユ:スケールが大きい(笑)。

ワニオ:元彼対策としては費用がかかりすぎます。

ソウタ:撤去してほしいわけじゃないよ(笑)。

ケンジ:でもな、デート中に「ここ元彼と来たなあ」って何度も言われたら、「今日は俺と来てんだぞ」ってなる。

ソウタ:そう。それなんだよ。

ミカコ:それは過去があることが問題なんじゃなくて、今の相手への配慮の問題でしょ。

ミユ:ああ、確かに。

ミカコ:元彼と旅行したことがある。写真が残ってる。プレゼントも持ってる。そんなの全部、付き合う前の話じゃない。

ミカコ:でも今のデート中に元彼の話ばっかりされたら、それは普通に嫌でいいと思う。

ソウタ:なるほどね。

ワニオ:過去の存在と、過去を現在へ持ち込むことは別なのですね。

ケンジ:そういうこった。過去まで全部消せなんて無茶な話だ。でも今付き合ってる相手の前で、わざわざ昔の男を主役にする必要もねえ。

ミユ:でもさ、ここまで話してて思ったんだけど。

ソウタ:なに?

ミユ:ソウタ君って、写真とか指輪そのものが嫌なのかな。

ソウタ:え?

ミユ:なんかもっと別のこと気にしてない?

ソウタ:別のこと?

ミカコ:私もさっきから思ってた。

ソウタ:何を?

ミカコ:あんたが本当に嫌なのって、元彼じゃないんじゃない?

ソウタ:……どういうこと?

ミカコ:「自分より元彼の方が特別だったかもしれない」って思うのが嫌なんでしょ。

ソウタ:……。

ケンジ:おお。そこまで行くか。

ワニオ:元彼本人ではなく、比較の問題ということでしょうか。

ソウタ:それは……ちょっとあるかもしれない。

ミユ:仮の話なのに?

ソウタ:ミユ、それまだやるの?(笑)

本当に嫌なのは、元彼じゃなくて「負けてる気がすること」?

彼女と一緒にいるが、彼氏の頭の中は元彼のことばかり。勝手に比較している。

ソウタ:自分より元彼の方が特別だったかもしれない、か。

ミカコ:違う?

ソウタ:いや……たぶん、ちょっと当たってる。

ミユ:例えばどんなときに思いそう?

ソウタ:さっきの三年付き合ってたとかもそうだし……。

ソウタ:「その人とは結婚も考えてた」って聞いたら、結構くると思う。

ミユ:でも、それは昔の話だよね?

ソウタ:分かってるんだけどね。

ミカコ:またそれ。

ソウタ:だって、理屈で全部片づくなら恋愛で悩む人いなくない?

ケンジ:まあ、それはそうだな。

ミカコ:ケンジさん、そっちにつくの?

ケンジ:つくっていうか、分かるだけだよ。

ケンジ:昔の男がどうこうっていうより、自分が今どれくらい大事にされてるのか。気になってんじゃねぇかな。

ソウタ:ああ……。

ケンジ:「あいつより俺の方が上か」じゃなくてさ。

ケンジ:「俺もちゃんと特別なのか」って。

ミユ:それだと、ちょっと印象変わるね。

ソウタ:うん。そっちの方が近いかも。

ミカコ:でも結局、確認しようがなくない?

ソウタ:そこなんだよね。

ミカコ:元彼と今の彼氏を採点して、「あなたの方が8点上です」なんて出ないでしょ。

ワニオ:項目別なら可能でしょうか。

ミユ:やらなくていい(笑)。

ワニオ:会話、優しさ、料理、寝起き――。

ソウタ:寝起きまで採点されるの嫌だなあ。

ケンジ:そもそも恋愛って、前の相手より点数が高いから付き合うもんでもねぇだろ。

ソウタ:そうなの?

ケンジ:そうだろ。十代で好きになった相手と、三十代で好きになった相手じゃ、好きになり方だって違う。

ケンジ:どっちが上とかじゃない。

ミユ:確かに。昔すごく好きだった人がいたからって、その後の人をそれ以下にしか好きになれないわけじゃないもんね。

ミカコ:むしろ毎回過去最高を更新しないと付き合えないなら大変よ。

ソウタ:でもさ。

ミカコ:まだあるの?

ソウタ:例えば、自分が初めて一緒にやったことを「これ元彼ともやったことある」って言われたら、ちょっと寂しくない?

ミユ:何をやったかによる。

ソウタ:旅行とか。

ミユ:旅行くらい行ったことあるでしょ。

ソウタ:初めて二人で旅行して、こっちは結構特別な気分なのに、向こうは何回も経験してるとか。

ミカコ:めんどくさいわねえ。

ソウタ:今日はずっとそれ言われてる(笑)。

ケンジ:でも、気持ちは分かるよ。

ソウタ:ケンジさんは分かってくれる。

ケンジ:ただな。

ソウタ:うん。

ケンジ:相手にとって初めてじゃないからって、お前との時間まで二回目になるわけじゃねぇだろ。

ソウタ:……あ。

ミユ:おお。

ケンジ:行ったことある場所でも、一緒にいる人が違えば別の思い出になる。

ケンジ:そこまで昔の男に譲ってやる必要はないんじゃないか。

ソウタ:なるほどね。

ワニオ:元彼が一度訪れた場所をすべて使用不可にすると、かなり行動範囲が狭くなります。

ミユ:観光地ほぼ全滅するよ(笑)。

ソウタ:某テーマパークとか絶対危ないね。

ミカコ:何が危ないのよ。

ソウタ:元彼と行ったことある可能性。

ミカコ:だから勝手に地雷原を作るなって。

ワニオ:元彼が全国各地に領土を広げています。

ミユ:強すぎる(笑)。

ソウタ:でも今の話聞いてたら、なんとなく分かってきたかも。

ミユ:何が?

ソウタ:彼女の過去が気になるって、過去そのものを知りたいわけじゃないのかもしれない。

ミカコ:ようやく?

ソウタ:「自分はちゃんと好きでいてもらえてるのかな」って知りたいのかも。

ケンジ:たぶん、そっちだろうな。

ソウタ:でも、それを確かめるために元彼の話を聞くのって……。

ミカコ:遠回りね。

ワニオ:現在地を確認するために、過去の地図をずっと見ている状態でしょうか。

ミユ:あ、それいいかも。

ソウタ:じゃあ過去のことって、あんまり聞かない方がいいのかな。

ケンジ:そこまで極端にする必要もねぇと思うけどな。

ミユ:普通に話してたら、昔の恋愛の話が出ることもあるもんね。

ミカコ:問題は「知ること」じゃなくて、知ったあと勝手に比較大会を始めることじゃない?

ソウタ:比較大会……。

ワニオ:参加者は現在の彼氏一名です。

ソウタ:元彼、出場してないもんね。

ワニオ:はい。先ほどから欠席しています。

ミユ:欠席者に苦戦しすぎ(笑)。

じゃあ、彼女の過去は聞かない方がいい?

元彼との比較大会をひとりで始めて虚しさを感じている。

ソウタ:でも比較大会が始まるなら、最初から何も聞かない方が平和な気もする。

ミユ:それはそれで難しくない?

ソウタ:そう?

ミユ:付き合ってたら昔の話するじゃん。「大学のとき何してた?」とか「前にここ来たことある?」とか。

ソウタ:ああ、そこから元彼が出てくることもあるか。

ミユ:あるでしょ。恋愛の話だけ全部避ける方が不自然だよ。

ケンジ:俺も、聞くこと自体は悪くないと思うけどな。

ミカコ:問題は聞き方でしょ。

ソウタ:聞き方?

ミカコ:普通の会話で「前の彼氏とはなんで別れたの?」って聞くのと、情報を集めるために質問攻めにするのは全然違うじゃない。

ソウタ:例えば?

ミカコ:何人と付き合った? 何年付き合った? どこ行った? 何もらった? どっちから告白した? どっちから別れた?

ミユ:多い多い(笑)。

ワニオ:元彼名鑑の情報が充実してきました。

ソウタ:まだ作ってたの?

ワニオ:作っていません。

ソウタ:じゃあなんで充実させるの(笑)。

ケンジ:一番よくないのは、聞いた答えに自分で傷ついて、また次を聞くことじゃねぇかな。

ソウタ:ああ……。

ケンジ:一個聞いてモヤモヤする。安心したくてもう一個聞く。そしたらまた別のことが気になる。

ミユ:終わらないね。

ケンジ:終わらないよ。欲しいのは情報じゃなくて安心なんだから。

ソウタ:なるほど。

ミカコ:しかも最終的に聞きそうじゃない?

ソウタ:何を?

ミカコ:「元彼と俺、どっちが好き?」

ソウタ:……聞きたくなる気持ちは分かる。

ミカコ:一番めんどくさい。

ソウタ:まだ聞いてないよ(笑)。

ミユ:でもそれ、彼女側も困ると思う。

ソウタ:「今の彼氏の方が好き」って言えばいいんじゃない?

ミユ:それ言ったら、本当に安心する?

ソウタ:……。

ミユ:たぶん次に「じゃあ一番好き?」とか聞かない?

ソウタ:聞くかもしれない。

ミカコ:ほら始まった。

ソウタ:でも「一番好き」って言われたら、さすがに安心するよ。

ケンジ:どうかな。

ソウタ:まだある?

ケンジ:そのうち「本当に?」ってなるかもしれないぞ。

ソウタ:……なるかもしれない。

ミカコ:面倒くささに底がないわね。

ワニオ:「一番好き」という回答を得たあと、その回答自体の信頼性を調査し始めるのですね。

ミユ:恋愛の取り調べだ(笑)。

ソウタ:なんか今日、未来の俺がどんどん嫌な男になってない?

ミカコ:まだ彼女もいないのにね。

ソウタ:それ言わなくていいじゃん。

ケンジ:まあ、そこまで心配しなくていいよ。実際に好きな相手と付き合ったら、また違うかもしれないしな。

ソウタ:そうかな。

ケンジ:ただ、相手が話したくないことまで掘るのはやめた方がいい。

ミユ:うん。それは女性側からも思う。

ソウタ:やっぱり嫌?

ミユ:嫌っていうか、「そこまで知ってどうするの?」って思うかも。

ミユ:昔付き合ってた人のことを普通に話すのはいいけど、言いたくないことまで「俺には全部教えて」って言われたらちょっと違う。

ミカコ:付き合ったからって、過去の全記録を提出する義務なんてないからね。

ワニオ:恋人になる際に、恋愛履歴書の提出は不要なのですね。

ミユ:そんなの提出したくない(笑)。

ソウタ:写真付き?

ミカコ:だから元彼名鑑から離れなさい。

ソウタ:俺が始めたんじゃないよ(笑)。

ケンジ:昔の恋愛を知ることで、相手のことが分かる場合もあるんだよ。

ソウタ:例えば?

ケンジ:前の恋愛で何が嫌だったとか、どうして別れたとか。そういう話なら、今その人が何を大事にしてるのか分かることもある。

ミユ:あ、それはあるかも。

ケンジ:でも「元彼より俺の方が上だよな?」を確認するために聞くなら、たぶんいくら聞いても足りない。

ソウタ:知るために聞くのか、安心するために聞くのか。

ミカコ:そういうことね。

ワニオ:そして安心が目的の場合、本当に確認したい相手は元彼ではないのでは。

ソウタ:誰?

ワニオ:現在の彼女です。

ソウタ:……確かに。

ミユ:「昔の人より好き?」じゃなくて、「今ちゃんと好き?」ってことだもんね。

ケンジ:だったら、昔の男を掘るより今の二人を見た方が早いよ。

ソウタ:なんか今日は、いない彼女といない元彼についてずいぶん考えたなあ。

ミカコ:登場人物の半分が存在してないからね。

ワニオ:非常に想像力を必要とする恋バナです。

ソウタ:でも勉強にはなってるよ。

ミユ:いつか彼女できたときの?

ソウタ:うん。そのときは過去のことばっかり気にしないようにする。

ミカコ:まだ早い。綺麗にまとめようとしないで。

ソウタ:え?

ミカコ:どうせまだ「でもさ」が残ってる顔してる。

ソウタ:……分かる?

ミカコ:分かる。

ソウタ:じゃあ、もう一個だけ。

ミユ:まだあるんだ(笑)。

彼女の過去には、たぶん勝たなくていい

結局彼女の過去が頭から離れない男性。割り切るのは難しい。

ミユ:で、もう一個って?

ソウタ:もし彼女がさ、元彼のことを本当にすごく好きだったとしても、気にしなくていいのかな。

ミカコ:また戻ったわね。

ソウタ:最後だから(笑)。

ケンジ:いいんじゃないか。すごく好きだったなら、それはそれで。

ソウタ:ケンジさんは平気?

ケンジ:今ならな。昔なら気にしたかもしれない。

ケンジ:でも長く生きてりゃ、誰にだって過去は増えるよ。大事だった人もいれば、忘れたくない思い出だってある。それ全部なかったことにしてから次の恋愛を始めるわけじゃないだろ。

ソウタ:そっか。

ミユ:それに今付き合ってるのは、元彼じゃなくて今の彼氏だもんね。

ソウタ:まだ俺には彼女いないけどね。

ミユ:仮の彼氏の話(笑)。

ミカコ:結局さ、彼女の過去に勝とうとする必要なんてないのよ。昔の恋愛と今の恋愛は別なんだから。

ワニオ:そもそも元彼側は、勝負を申し込まれたことすら知らない可能性があります。

ソウタ:そう考えると、ずっと一人で戦ってるんだね。

ワニオ:はい。かなり孤独な大会です。

ミユ:もう比較大会やめよう(笑)。

ソウタ:うん。なんか分かった気がする。

ミカコ:本当に?

ソウタ:たぶん。過去より、今一緒にいるときにどう思ってくれてるかを見る。

ケンジ:それでいいんじゃねぇかな。

ソウタ:……でもさ。

ミカコ:ほら来た。

ソウタ:初デートで行った店で、「ここ元彼とも来たことある」って言われたら、やっぱりちょっと嫌じゃない?

ケンジ:……まあ、それはちょっと嫌だな。

ソウタ:だよね!

ミカコ:ケンジさんまで戻ってくんな。

ミユ:せっかく綺麗に終わりそうだったのに(笑)。

ワニオ:本日の結論は、およそ三十秒維持されました。

ソウタ:でも気になるものは気になるんだから仕方ないよ。

ケンジ:まあ、そんなもんだよ。

彼女の過去が気になってしまう。

それ自体は、そんなにおかしなことじゃないのかもしれない。

ただ、まだそこにいない元彼と戦っているうちに、今目の前にいる彼女まで見えなくなったら、たぶん少しもったいない。

過去には勝たなくていい。

……とはいえ、気になるものは気になる。

どうやら恋愛は、そのくらいすっきりしない方が普通らしい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次