ある日の午後。
こいこと。編集部のドアが勢いよく開いた。
ユウカ:聞いて。
ユウカ:また別れた。
……。
ミサキ:そう。
ユウカ:反応うすっ。
ミサキ:だって先月も聞いたもの。
ユウカ:先月とは別の人だから。
ミサキ:なお悪いわね。
⸻
ツムギ:こんにちはー!
ちょうどそのタイミングでツムギが編集部にやってきた。
最近ではすっかり常連である。
ツムギ:あれ?
ツムギ:なんか修羅場ですか?
ミサキ:違うわ。
ミサキ:いつものよ。
ユウカ:いつものって言うな。
⸻
ミサキ:紹介するわ。
ミサキ:この子はユウカ。
ミサキ:恋愛能力は高いのに恋愛継続能力が壊滅してる女よ。
ユウカ:紹介の仕方。
ツムギ:こんにちは!
ツムギ:ツムギです!
ユウカ:あ、この子が噂の。
ユウカ:ミサキが可愛がってる子?
ミサキ:人聞き悪いわね。
ツムギ:ミサキ様にはお世話になってます!
ユウカ:あはは。
ユウカ:ほんとに懐いてる。
⸻
ツムギ:あの……。
ツムギ:さっきの話なんですけど。
ツムギ:別れたのに、なんでそんな元気なんですか?
……。
ユウカ:え?
ツムギ:だって失恋ですよね?
ユウカ:うん。
ツムギ:なのに笑ってます。
ユウカ:あー。
ユウカ:それはね。
ユウカ:わたしも毎回ちょっと不思議なんだよね。
⸻
ミサキ:始まったわ。
ミサキ:恋愛ポンコツ講座。
ユウカ:誰がポンコツよ。
ミサキ:あなたよ。
ツムギ:わたし、聞きたいです!
ツムギ:好きになる人と、好きがわからない人って、何が違うんですか?
……。
こうして。
恋を知らないツムギ。
恋に突っ込み続けるミサキ。
そして、恋はするのに続かないユウカ。
妙な三人の恋愛座談会が始まった。
恋人はできるのに、なぜか続かない女

ツムギ:まず聞きたいんですけど。
ツムギ:ユウカさんって、どれくらい付き合うんですか?
ユウカ:うーん。
ユウカ:長くて半年くらいかな。
……。
ツムギ:半年!?
ミサキ:長い方ね。
ユウカ:長い方なの!?
ミサキ:あなた基準だとね。
⸻
ツムギ:でも、好きなんですよね?
ユウカ:好きだよ。
ツムギ:じゃあなんで別れるんですか?
ユウカ:……。
ユウカ:それが分かれば苦労しないんだけど。
ミサキ:分かってるじゃない。
ミサキ:あなた、相手が本気になると逃げるのよ。
ユウカ:うっ。
ツムギ:逃げる?
ユウカ:逃げるっていうか……。
ユウカ:なんか怖くなるの。
⸻
ツムギ:何がですか?
ユウカ:相手がわたしを好きになればなるほど。
ユウカ:急に息苦しくなる。
ツムギ:えぇ?
ツムギ:好きになってくれるのって良いことじゃないんですか?
ユウカ:普通はそうだと思う。
ユウカ:でもね。
ユウカ:「ずっと一緒にいたい」とか。
ユウカ:「将来どうする?」とか。
ユウカ:そういう話が出てくると急に……。
ユウカ:逃げたくなる。
……。
ツムギ:難しいです。
ミサキ:でしょうね。
ミサキ:わたしも理解できないもの。
⸻
ユウカ:だってミサキは逆じゃん。
ユウカ:好きになったら一直線じゃん。
ミサキ:当然でしょ。
ミサキ:好きな人がいたら追いかけるわ。
ユウカ:その情熱どこで売ってるの。
ミサキ:売ってないわよ。
ミサキ:生まれつきよ。
ツムギ:かっこいい……。
ミサキ:そこは真似しなくていいわ。
⸻
ツムギ:でもユウカさん。
ツムギ:別れる時って悲しくないんですか?
ユウカ:悲しいよ。
ツムギ:え?
ユウカ:めちゃくちゃ悲しい。
ユウカ:毎回後悔する。
ツムギ:じゃあなんで……。
ユウカ:だから困ってるの。
……。
ミサキ:この女ね。
ミサキ:恋愛に向いてるのに、恋愛が下手なのよ。
ユウカ:それ悪口?
ミサキ:事実よ。
ツムギ:恋愛って難しいんですね……。
ミサキ:ようこそ。
ミサキ:面倒くさい世界へ。
好きって、そんなにすごいものなんですか?

ツムギ:あの。
ツムギ:わたし、ずっと気になってたんですけど。
ミサキ:なによ。
ツムギ:好きって、そんなにすごいものなんですか?
……。
ユウカ:おお。
ユウカ:根本的な質問きた。
ミサキ:哲学の時間かしら。
⸻
ツムギ:だって。
ツムギ:ユウカさんは好きになるのに別れるし。
ツムギ:ミサキ様は好きになると一直線だし。
ツムギ:ソウタさんも告白するくらいだし。
ツムギ:みんな好き好き言うじゃないですか。
ツムギ:そんなに特別なんですか?
⸻
ユウカ:うーん。
ユウカ:わたしは特別だと思うな。
ツムギ:どうしてですか?
ユウカ:だって。
ユウカ:好きになると、その人のことばっかり考えちゃうもん。
ユウカ:会いたくなるし。
ユウカ:LINE来たら嬉しいし。
ユウカ:来なかったら気になるし。
ツムギ:忙しそうですね。
ユウカ:そうなのよ。
ユウカ:恋愛ってわりと忙しいの。
⸻
ミサキ:わたしは少し違うわね。
ツムギ:どう違うんですか?
ミサキ:好きな人ができると。
ミサキ:人生に色がつくのよ。
ツムギ:色?
ミサキ:ええ。
ミサキ:同じ景色でも楽しく見えるし。
ミサキ:嫌なことがあっても少し頑張れる。
ミサキ:逆に傷つくことも増えるけどね。
ツムギ:なるほど……。
ユウカ:珍しく良いこと言った。
ミサキ:失礼ね。
⸻
ツムギ:でも。
ツムギ:わたし、まだ分からないかもしれません。
ミサキ:別にいいのよ。
ツムギ:え?
ミサキ:分からないなら分からないで。
ミサキ:無理に恋愛しなくてもいいじゃない。
ミサキ:恋愛は資格試験じゃないんだから。
ユウカ:確かに。
ユウカ:急に受験日来ないしね。
ツムギ:よかったです。
ツムギ:ちょっと安心しました。
⸻
ユウカ:でもさ。
ユウカ:ひとつだけ気になる。
ツムギ:なんですか?
ユウカ:ソウタくんのこと。
……。
ツムギ:ソウタさん?
ユウカ:うん。
ユウカ:あの人といる時、嫌じゃないんでしょ?
ツムギ:全然。
ツムギ:むしろ楽しいです。
ユウカ:ふーん。
ミサキ:ふふ。
ツムギ:なんですか?
ユウカ:いや別に。
ミサキ:何でもないわ。
ツムギ:絶対何かありますよね!?
二人は顔を見合わせた。
そして同時に笑った。
ユウカ:恋ってね。
ユウカ:案外そういう所から始まるのかもしれないよ。
恋を知らないままでもいい?

ツムギ:でも。
ツムギ:やっぱり、まだ分からないです。
ツムギ:好きって何なのか。
……。
ユウカ:それでいいんじゃない?
ツムギ:いいんですか?
ユウカ:うん。
ユウカ:わたしなんて好きになりすぎて困ってるし。
ミサキ:そして続かない。
ユウカ:うるさい。
⸻
ミサキ:恋愛なんてね。
ミサキ:分かってる人の方が少ないのよ。
ツムギ:そうなんですか?
ミサキ:ええ。
ミサキ:恋を知らない女もいる。
ミサキ:恋に振り回される女もいる。
ミサキ:恋で暴走する女もいる。
ユウカ:最後ミサキじゃん。
ミサキ:聞こえなかったことにするわ。
⸻
ツムギ:じゃあ。
ツムギ:今はまだ分からなくてもいいんですね。
ミサキ:当然よ。
ミサキ:焦って答えを作る必要なんてないわ。
ユウカ:そのうち勝手に来るかもしれないしね。
ツムギ:その時は……。
ツムギ:ちゃんと考えてみます。
⸻
ミサキ:さて。
ミサキ:いい時間だったわね。
ユウカ:急に締めに入った。
ミサキ:当然でしょ。
ミサキ:今回の恋バナ、記事にさせてもらうわ。
ユウカ:えっ。
ユウカ:ちょっと待って。
ユウカ:わたしまた全国公開されるの?
ミサキ:安心なさい。
ミサキ:恋愛ポンコツ代表として立派に紹介してあげる。
ユウカ:安心できる要素がひとつもない。
ツムギ:わたしも載りますか?
ミサキ:もちろん。
ミサキ:恋を知らない女枠よ。
ツムギ:わーい!
ユウカ:喜ぶところなのそれ?
⸻
恋を知らない女。
恋を繰り返す女。
恋に突っ込む女。
——どれが正しいわけでもない。
でもきっと。
恋愛が面倒くさいことだけは、全員一致だった。

