ユウカ:わたしの名前はユウカ。こいこと。の編集担当。前回いきなり出てきたけど、まあ前からいるってことでいいでしょ。
ユウカ:人と仲良くなるのは得意。男女関係なく、気づいたら距離近くなってるタイプ。だから基本、誰とでもうまくやれる。……まあ、たまに面倒くさいのもいるけどね。モテるとさ、ちょっと変な目で見られることもあるし。でもまあ、それ込みで楽なほうだと思う。
ユウカ:……ただ、深くなるのはあんまり得意じゃない。まあ、その話はいいか。
ユウカ:最近ちょっと気に入ってるやつがいる。ミサキ。あの人さ、ちょっとおかしいんだよね。
ユウカ:美人とか、そういうレベルじゃない。道歩いてても、打ち合わせでも、だいたい誰かしら見てる。わたしもまあ、美人寄りではあると思う。でもミサキは別枠。あれは目立つ。半端じゃない。
ユウカ:まあ、親しみやすさならわたしの方が勝ってると思うけどね。
ユウカ:で、今日はそのミサキと2人飲み。なんでこの人と一緒にいるのか、正直よく分かってない。でもまあ、話してるとちょっと面白い。
ユウカ:……あ、来た。ほらね。入ってきた瞬間、空気変わるでしょ。

ミサキという存在

店の入口の方が、少しだけざわつく。
大げさじゃなくて、本当にそういう空気になる。
視線が、自然に集まる。
別に派手なことしてるわけでもないのに。
ミサキ:……ごめん、遅れたわ
ユウカ:いや別に。どうせそんな感じだと思ってたし
ミサキは軽く椅子を引いて座る。
動きがいちいち自然なのに、なぜか目を引く。
こういうのを“持ってる”って言うんだろうなって思う。
ミサキ:で、何その顔
ユウカ:いや、今日も目立ってんなーって思って
ミサキ:そういうのいいから。飲むでしょ?
ユウカ:はいはい
店員を呼ぶでもなく、自然と飲み物が決まる。
こういうテンポも、なんか合う。
ミサキ:それで?最近どうなの
ユウカ:どうって?
ミサキ:恋愛に決まってるでしょ
ユウカ:あー……まあ、いつも通りかな
ミサキ:“いつも通り”って便利な言葉ね
ユウカ:でしょ。便利なのよ
こういう会話が、普通に続く。
詮索してるようで、踏み込みすぎない。
でも、見てるところはちゃんと見てる。
……この人、やっぱりちょっとおかしい。
わたしは人と仲良くなるのは得意だけど、深くなるのはあんまり得意じゃない。
距離が近くなりすぎると、なんとなく引きたくなる。
別に理由があるわけじゃないけど、そういうもの。
でも——
ミサキとは、ちょっと違う。
なんでかは分からないけど、気づいたら普通に話してるし、変に隠したりもしない。
本音かどうかは自分でもよく分からないけど、それっぽいことは喋ってる気がする。
……まあ、それも別にいいか。
恋が続かない理由
ミサキ:で、その“いつも通り”って、どういう意味?
ユウカ:んー……まあ、普通に出会って、普通に仲良くなって、普通に付き合って
ユウカ:で、なんとなく終わる、みたいな
ミサキ:便利な言葉ね、“なんとなく”
ユウカ:便利だよ。説明めんどくさいし
ミサキ:説明できないだけでしょ
ユウカ:うわ、きた
ミサキはグラスを傾けながら、少しだけ視線を上げる。
ミサキ:別に責めてるわけじゃないのよ
ミサキ:ただ、毎回同じ終わり方してるなら、理由くらい分かってるでしょって話
ユウカ:……どうだろね
ユウカ:なんかさ、最初はいいのよ
ユウカ:楽しいし、普通に好きだし
ユウカ:でも、だんだん近くなってくるとさ
ユウカ:あー、これ無理かもって思う瞬間がくる
ミサキ:何が?
ユウカ:距離
ユウカ:近くなりすぎる感じ
ユウカ:なんか、逃げたくなるんだよね
ミサキ:……へえ
ユウカ:別に嫌いになったわけじゃないのにさ
ユウカ:むしろいい人だなって思ってるのに
ユウカ:それでもダメになる
ユウカ:だから余計に意味分かんないんだけど
ミサキは少しだけ口元を緩める。
ミサキ:分かりやすいじゃない
ユウカ:どこが?
ミサキ:近くなるのが怖いだけでしょ
ユウカ:いや、それ言われると一気に安っぽくなるんだけど
ミサキ:でもそういうことでしょ
ユウカ:……まあ、そうかもね
ミサキ:で、逃げる
ユウカ:言い方な
ミサキ:事実でしょ
ユウカ:……否定はしない
グラスの中の氷が、静かに音を立てる。
ユウカ:でもさ、そっちはどうなの
ユウカ:そんな簡単に近くなれるわけ?
ミサキ:簡単じゃないわよ
ミサキ:ただ、逃げないだけ
ユウカ:それができるのがすごいんだよ
ミサキ:そう?
ユウカ:うん、普通無理じゃない?
ミサキ:あなたが“普通”を語るのね
ユウカ:うるさいな
軽く笑いながらも、会話は少しだけ深く沈む。
逃げる女と、逃げない女。
たぶん、どっちも面倒くさい。
ミサキの恋愛って、実はどうなの
ユウカ:ていうかさ
ユウカ:人のこと言っといてアレだけど、あんたも大概じゃない?
ミサキ:何がよ
ユウカ:恋愛
ユウカ:なんかさ、めちゃくちゃ強そうに見えるけど
ユウカ:実際そんな簡単にいかないタイプでしょ
ミサキ:……どういう意味?
ユウカ:慎重っていうか
ユウカ:本気になるまで時間かかるし
ユウカ:なったらなったで、めんどくさそう
ミサキ:……めんどくさい、ね
ユウカ:うん、絶対ポンコツになるタイプ
ミサキ:言うじゃない
ユウカ:いやなんとなく分かる
ユウカ:普段ちゃんとしてる人ほど、そっち崩れるし
ユウカ:……でさ
ユウカ:今ってどうなの
ユウカ:恋愛する気あるの?
ミサキ:あるわよ
ユウカ:ほんとに?
ミサキ:何その疑い方
ユウカ:いやだってさ
ユウカ:あんた、全然そういう空気出してないじゃん
ユウカ:作ろうと思えばすぐできそうなのに
ユウカ:やってない感じするし
ミサキ:……
ユウカ:なんかさ
ユウカ:選んでるっていうより、止まってる感じ
ユウカ:……気のせいならいいけど
ミサキの答え

ミサキは、グラスを軽く回しながらしばらく何も言わなかった。
氷の音だけが、やけに静かに響く。
ミサキ:……面白いこと言うじゃない
ユウカ:でしょ
ミサキ:“止まってる感じ”ね
ミサキ:あながち間違ってないのが腹立つわ
ユウカ:当たってるんだ
ミサキ:さあね
ミサキは一口だけ飲んで、少しだけ視線を落とす。
ミサキ:恋愛する気はあるわよ
ミサキ:ただ、適当に始める気がないだけ
ユウカ:あー出た、それっぽいやつ
ミサキ:それっぽいじゃなくて事実よ
ミサキ:わたしね、無駄な時間使うの嫌いなの
ミサキ:どうでもいい相手に合わせるくらいなら、一人でいい
ユウカ:ストイックだねぇ
ミサキ:でしょ?
軽く笑う。でも、そのあと少しだけ間が空く。
ミサキ:……ただ
ミサキ:本気になったら面倒くさいっていうのは、否定しないわ
ユウカ:ほらね
ミサキ:舐めてくれるわね
ミサキ:でも、そういうものじゃない?
ミサキ:ちゃんと好きになるって、多少は面倒になるものよ
ミサキ:むしろ、何も変わらない方が不自然だわ
ユウカ:あたしは変わる前に終わるけどね
ミサキ:知ってる
一瞬だけ、目が合う。
それ以上は、踏み込まない。
ミサキ:あとひとつ言うなら
ミサキ:“止まってる”んじゃなくて——
ミサキ:選んでるのよ
ミサキ:……今は、動かないって
ユウカ:ふーん
ミサキ:何よその顔
ユウカ:いや別に。なんか、ちゃんと人間っぽいなって思って
ミサキ:は?
ユウカ:いやだってさ、もっとバチバチに割り切ってるかと思ってたから
ユウカ:意外とそうでもないんだなーって
ミサキ:……まぁ、そうね
なんとなく、分かったような気もする
店を出る頃には、さっきまでの空気が少し軽くなっていた。
別に何かが解決したわけじゃない。
お互い、相変わらず面倒くさいままだと思う。
ユウカ:……なんかさ
ユウカ:あんたと話してると、変な感じになるんだよね
ミサキ:何それ
ユウカ:いや、別にいい意味で
ユウカ:自分のこと、ちょっと分かるっていうか
ユウカ:……分かりたくないとこまで見えるっていうか
ミサキ:それは最悪ね
ユウカ:でしょ
軽く笑って、そのまま歩き出す。
深い話なんて、別にしたくないのに。
ミサキといると、なぜかそうなる。
理由は、まだよく分からない。
まあ——
それでもいいか、とは思ってる。


