兄弟に嫉妬するって、性格悪い?
ある日の、こいこと。編集部。
次の記事テーマを決めるため、ナナ、ミカコ、ミユ、リク、ワニオがテーブルを囲んでいた。
ミユ:兄弟に嫉妬するって、ちょっと言いづらくない?
ナナ:いきなりどうしたの。
ミユ:いや、今回のテーマ。「兄弟・姉妹に嫉妬してしまう」。
ミカコ:あるでしょうね。
ミユ:あるよね。でも友達とか同僚に嫉妬するより、なんか罪悪感強そうだなって。
リク:家族ですからね。「喜んであげるべき」という感覚もありそうです。
ミユ:そうそう。例えば友達が自分よりモテて「いいなー」って思うくらいなら、まあ普通じゃん。
ミカコ:程度によるけどね。
ミユ:程度によるけど。
ナナ:予防線張った。
ミユ:でもさ、「妹のほうが可愛いから嫌」とか「兄のほうが頭いいのがムカつく」とかになると、急に言えなくない?
リク:たしかに。
ミユ:しかも兄弟のこと自体は嫌いじゃなかったりする。
ナナ:それは全然あると思うよ。
ミユ:ナナさん、即答だね。
ナナ:私、双子の妹いるからね。
ミユ:あ、そうだった。
ナナ:ネネのことは好きだよ。普通に仲いいし。
ミカコ:でも?
ナナ:「でも」って待ち構えないでよ。
ミカコ:だって今の流れ、絶対「でも」が来るでしょ。
ナナ:……まあ、来るけど。
ミユ:来るんだ。
ナナ:姉妹だからって、何ひとつ比べないなんて無理じゃない?
リク:それはそうかもしれません。
ナナ:まして双子なんて、子どもの頃からセットで見られやすいし。「どっちがしっかりしてる」とか「どっちが社交的」とか、本人たちが頼んでもないのに周りが比べるの。
ミユ:うわあ。それ嫌だね。
ナナ:でしょ? だから仲がいいことと、嫉妬したことがないって、全然別だと思う。
ワニオ:近いですからね。
ミユ:距離が?
ワニオ:比較対象として。
ミユ:ああ。
ワニオ:知らない人が自分より足が速くても、あまり気になりません。
ミカコ:まあね。
ワニオ:隣の家の人が東京大学を卒業していても、関係ない人が多いです。
ミユ:急に東大出てきた。
ワニオ:でも、同じ家で育った兄が東京大学に入ったら。
ナナ:親戚の集まりで一生言われそう。
ミカコ:「お兄ちゃんは昔から頭良かったもんね」とかね。
ミユ:うわ。もう聞こえる。
リク:本人同士が競争していなくても、周りが比較することもありますね。
ワニオ:同じ親。同じ家。同じ学校の場合もあります。
ミユ:条件が近いってこと?
ワニオ:はい。遠くの誰かより、差が見えやすいです。
ミカコ:しかも逃げにくいのよ。学校のライバルなら卒業すれば離れるけど、兄弟は家帰ってもいるから。
ナナ:それな。
ミユ:テストで負けて学校から帰ってきたら、勝った人がリビングでポテチ食べてる可能性あるんだ。
ミカコ:嫌な具体例ね。
ワニオ:ポテチは関係ありません。
ミユ:分かってるよ。
兄弟や姉妹は、他人よりずっと近い。
だからこそ、比べたくなくても比べてしまう。
学歴、容姿、運動能力、性格、友達の多さ。
大人になれば、仕事や収入、恋愛、結婚まで比較の材料になることもある。
ミユ:でもさ、自分より全部上みたいな兄弟がいたら、やっぱりしんどそう。
リク:「全部上」と感じてしまうこと自体がつらそうですね。
ナナ:そうなんだよね。本当は全部じゃないのに。
ミカコ:嫉妬してるときって、相手の持ってるものばっかり見えるから。
ミユ:自分にあるものは見えなくなるってこと?
ミカコ:なりやすいんじゃない?
ミユ:それで「こんなこと思う私、性格悪い」ってなるのか。
ナナ:私は、思っただけなら別にいいと思うけど。
ミユ:いいの?
ナナ:だって感情なんて勝手に出てくるじゃん。「今日から妹に嫉妬します」って決めて嫉妬する人いないでしょ。
リク:たしかに、感じること自体を完全に選ぶのは難しいですね。
ミカコ:嫉妬しただけで性格悪い認定してたら、だいぶ多くの人が性格悪いことになるわよ。
ミユ:私も入ってそう。
ナナ:私も入る。
ミカコ:私もたぶん入る。
リク:僕も経験はあります。
ミユ:リクくんまで。全滅じゃん。
ミユがワニオを見る。
ミユ:ワニオは?
ワニオ:兄弟はいません。
ミユ:そこじゃないって。嫉妬したこと。
ワニオ:あります。
ミユ:あるんだ!
ワニオ:カモが魚を捕るのが上手でした。
ミユ:比較対象そこなの?
ワニオ:負けました。
ミカコ:何の勝負してたのよ。
少しだけ、空気が緩んだ。
兄弟に嫉妬する。
言葉にすると、どこか後ろめたく聞こえる。
けれど、嫉妬したからといって、その兄弟を嫌っているとは限らない。
好きな相手を羨ましく思うこともある。
大切な相手だからこそ、自分との差が痛く見えることだってある。
問題は、嫉妬という感情が生まれたことだけではないのかもしれない。
ミカコ:それより私、気になるんだけど。
ミユ:なに? ミカコさん。
ミカコ:その嫉妬、本当に本人が勝手に始めたのかなって。
ナナ:ああ。
ミユ:どういうこと?
ミカコ:親がずっと比べてた可能性もあるでしょ。
今度は誰も、すぐには答えなかった。
兄弟だから、比べてしまうのか。
それとも――ずっと比べられてきたから、比べるようになったのか。
兄弟だから比べるのか、比べられたから嫉妬するのか

ミカコ:例えばさ。「お姉ちゃんはできるのに、あなたはどうしてできないの」とか。
ミユ:うわ、嫌だ。
ミカコ:「弟は運動神経いいのにね」とか。「妹は愛想がいいのに」とか。
ナナ:あるねえ。
ミユ:一回ならまだしも、ずっと言われたら絶対気にするようになる。
リク:本人が最初は比較していなかったとしても、意識するようになるでしょうね。
ミカコ:でしょ? それなのに大人になってから「兄弟に嫉妬するなんて」って本人だけ責めるのは、ちょっと違うと思う。
ミユ:比べる癖をつけたの、周りかもしれないもんね。
ミカコ:そう。
ワニオ:比較している人が二人に見えて、三人いる場合があります。
ミユ:自分と兄弟と……。
ワニオ:親です。
ナナ:親が一番張り切って順位つけてるパターンね。
リク:親だけではなく、祖父母や親戚もありそうです。
ミカコ:学校の先生だってあるでしょ。「お兄ちゃんは優秀だったよ」とか。
ミユ:先生、それ褒めてるつもりでも嫌だな。
ナナ:本人は兄でも姉でもないからね。
ミユ:そうなんだよ。「お姉ちゃんはこうだった」って言われても、知らんがなってなる。
ミカコ:その子自身を見てないのよね。
同じ家で育ったからこそ、兄弟や姉妹は比較されやすい。
成績。
運動能力。
容姿。
性格。
友達の多さ。
親からすれば何気ない一言でも、何年も繰り返されれば「自分は兄より劣っている」「妹のほうが愛されている」という感覚につながることがある。
ナナ:双子なんて、さらに分かりやすいよ。
ミユ:やっぱり比べられた?
ナナ:そりゃあるよ。「ネネちゃんのほうがこうだね」「ナナちゃんのほうがこうだね」って。
ミユ:勝手に部門別ランキング作られるんだ。
ナナ:そうそう。別に競技に参加した覚えないのに。
ミカコ:容姿なんて特に嫌じゃない?
ナナ:嫌だね。
ミユ:「妹のほうが可愛い」とか?
ナナ:それを子どもの頃から言われたら、そりゃ残るでしょ。
ミユ:しかも自分ではどうしようもない部分だもんね。
リク:努力で変えやすいものと、そうではないものがありますからね。
ミカコ:成績だって簡単じゃないけどね。「兄は勉強できたんだから、あなたもできるでしょ」なんて言われても、別の人間なんだから。
ワニオ:同じ親から生まれると、同じ性能になると思うのでしょうか。
ミユ:性能って言うな。
ワニオ:違う個体です。
ミユ:もっと言い方あるでしょ。
ミカコ:でも言ってることは合ってる。
リク:兄弟でも得意不得意も性格も違いますからね。
ワニオ:違う個体を同じ基準で並べて、差があることに驚く方が不思議です。
ナナ:ワニに言われると説得力あるんだかないんだか。
ミユ:ワニオはそもそも比較される兄弟いないしね。
ワニオ:カモはいます。
ミユ:まだ引きずってるの?
ワニオ:魚を捕るのが上手です。
ミユ:それはもう認めてあげなよ。
ミカコが少し笑ってから、表情を戻した。
ミカコ:あと、能力だけじゃないと思う。
ミユ:ほかにもある?
ミカコ:親の扱い。
ナナ:ああ。それは大きい。
ミカコ:同じことしても兄は怒られない。自分だけ怒られる。妹には何でも買ってあげる。自分のときは我慢させられた。
ミユ:それ、嫉妬するなっていう方が無理じゃない?
リク:子どもからすれば、「なぜ自分だけ」と感じますよね。
ミカコ:そういう話まで全部「兄弟への嫉妬」でまとめるの、私は嫌なのよ。
ミユ:というと?
ミカコ:本人の心が狭いから嫉妬してるとは限らないでしょ。
ミユが小さくうなずく。
ミカコ:明らかに扱いに差があったなら、「気にしないようにしましょう」じゃ済まないこともある。
ナナ:そりゃそうだ。
ミカコ:親がずっと兄弟を比べてきたのに、傷ついた子どものほうに「比べるのやめなよ」って言うのも変じゃない?
ミユ:火つけた人じゃなくて、燃えてる人に「燃えるのやめな」って言ってるみたい。
ミカコ:そういうこと。
ワニオ:火は自分で消した方がいいです。
ミユ:急に現実的。
ワニオ:でも、誰が火をつけたかは別の話です。
リク:ああ、それは大事ですね。
ワニオ:今つらいなら、自分で楽になる方法を考える必要はあります。
ナナ:うん。
ワニオ:だからといって、最初から全部自分のせいだったことにはなりません。
ミユ:なるほど。
ミカコ:そういうことよ。
原因が親にあったとしても、大人になった自分の人生を親に任せ続けるわけにはいかない。
けれど、自分が苦しんでいる理由まで無理に「私の性格が悪いから」と引き受ける必要もない。
まずは、なぜ兄弟を比べてしまうのか。
そこを一度、振り返ってみてもいい。
ミユ:でもさ。
ナナ:うん?
ミユ:親に比べられたとかじゃなくて、本当に単純に「兄が自分より成功してて悔しい」って人もいるよね。
ミカコ:もちろんいるでしょ。
ミユ:そっちはどうすんの?
ミカコ:どうするって?
ミユ:例えば、その兄が失敗したとするじゃん。
ナナ:うん。
ミユ:本当は心配しなきゃいけないのに……ちょっとだけホッとしちゃったら。
テーブルが少し静かになった。
ミユ:それはさすがに、「私、嫌なやつだな」って思わない?
ナナ:……思うかもね。
ワニオ:でも、ホッとしたんですよね。
ミユ:うん。
ワニオ:では、そこを「ホッとしていません」に変えても、あまり意味はないです。
ミユ:ワニオ、そういうところ容赦ないよね。
ワニオ:起きた感情なので。
兄弟の成功が羨ましい。
兄弟の失敗に、少し安心してしまう。
そこまで来ると、嫉妬はさらに人に言いづらくなる。
そして何より――そんなことを感じた自分自身を、嫌いになりやすい。
兄弟の失敗にホッとした自分が嫌になる

ミユ:これ、けっこうキツくない?
ナナ:キツいね。
ミユ:兄弟が成功して嫉妬するだけなら、まだ「羨ましい」で済むじゃん。
リク:はい。
ミユ:でも失敗したときに安心しちゃったら、「私、この人の不幸を喜んでる?」ってなる。
ミカコ:そこは分けた方がいいと思う。
ミユ:分ける?
ミカコ:「兄が失敗して嬉しい」と「兄との差が縮まった気がして安心した」は、似てるけど同じじゃないでしょ。
ナナ:ああ、なるほど。
ミカコ:もちろん、本気で相手の不幸を願ってるケースだってあると思うよ。でも全部そこにまとめる必要はない。
リク:例えば、ずっと兄と比較されてきた人なら、兄の失敗によって一瞬だけ比較から解放されたように感じることもありそうですね。
ミユ:「これで自分だけダメじゃない」みたいな?
リク:そうです。
ナナ:それなら、兄に不幸になってほしいっていうより、自分が楽になりたかったのかもね。
ミユ:うわ。それだとだいぶ意味変わるね。
ミカコ:だから感情って、表面だけ見ても分かんないのよ。
ワニオ:安心した理由を確認した方がいいですね。
ミユ:ワニオならどう確認するの?
ワニオ:兄が失敗したから嬉しいのか。
ミユ:うん。
ワニオ:自分が負けている感じが少し減ったから安心したのか。
ミユ:うん。
ワニオ:親にまた兄と比べられずに済むと思ったのか。
ナナ:全然違うね。
ワニオ:結果は同じでも、理由は違います。
ミカコ:そういうのを全部「性格悪い」で終わらせると、何も分からないままなのよ。
ミユ:でも本人はそこまで冷静に考えられないよね。
ナナ:まあね。「兄が落ちたって聞いてホッとした。最低だ、私」で終わっちゃいそう。
ミユ:私なら絶対それ。
ミカコ:ミユは一晩くらい引きずりそう。
ミユ:一晩どころじゃないよ。寝る前に思い出して「あー、私嫌な人間だ」ってなる。
ナナ:で、翌朝も思い出す。
ミユ:そう。
ワニオ:忙しいですね。
ミユ:感情がね。
ワニオ:兄の失敗、自分の嫉妬、自分への嫌悪。三つに増えています。
ミユ:増やしたくて増やしてるんじゃないよ。
ワニオ:でも増えています。
ミユ:ワニオはこういうときだけ計算が早い。
リク:ただ、自分を責め続けても最初に感じた嫉妬が消えるわけではないですよね。
ミカコ:むしろ余計しんどくなるだけ。
ナナ:じゃあ、「兄弟が失敗してホッとしました。そんな自分でもOKです」ってことでいいの?
ミカコ:私はそこまで言ってない。
ミユ:お、ミカコさん厳しい。
ミカコ:だって、何でも「そう思っちゃったんだから仕方ないよね」で済ませるのも違うでしょ。
リク:感情と行動を分ける、ということですか?
ミカコ:そう。思ったことまで取り締まる必要はない。でも、それを理由に何してもいいわけじゃない。
ミユ:例えば?
ミカコ:兄が失敗したときにホッとした。それはもう仕方ないとして。
ミユ:うん。
ミカコ:そこで嫌味言ったり、「ざまあみろ」って本人にぶつけたり、わざと傷つけたりするなら話は別。
ナナ:それはそうだね。
リク:兄弟の足を引っ張って、自分のほうを上にしようとするのも違いますね。
ミカコ:そういうこと。
ミユ:嫉妬するのと、嫉妬で攻撃するのは別か。
ワニオ:感情は発生します。行動は選べます。
ミユ:お。
ワニオ:何ですか。
ミユ:今の短くて分かりやすい。
ワニオ:長くしますか。
ミユ:しなくていい。
嫉妬した。
悔しかった。
兄弟の失敗に、ほんの少し安心してしまった。
そんな感情が浮かんだことだけで、自分を悪い人間だと決める必要はない。
大切なのは、その感情をどう扱うかだ。
ナナ:でもさ、もう一個あると思う。
ミユ:なに?
ナナ:嫉妬される側。
ミユ:ああ。
ナナ:ずっと「妹ばっかり可愛がられてずるい」って思ってたとしても、妹からしたら「私に言われても」ってことあるじゃん。
リク:本人が親に「私だけ可愛がって」と頼んだわけではないかもしれませんからね。
ミカコ:そこ、次に考えた方がいいと思う。
ミユ:親への怒りが、兄弟に向いてるかもしれないってこと?
ワニオ:誰が決めたのか、ですね。
ミユ:何を?
ワニオ:片方を褒めることも。片方に多く与えることも。
ミユが少し考える。
ワニオ:兄弟が奪ったのでしょうか。
ミユ:……あ。
ワニオ:それとも、親が決めたのでしょうか。
兄弟に向けていた嫉妬の奥に、別の相手への寂しさや怒りが隠れていることもある。
もしそうなら、一度その矛先を確かめてみる必要がありそうだ。
「親があの子ばかり可愛がった」は、兄弟との問題なのか

ミユ:これ、けっこうありそうだね。
ミカコ:あると思う。
ミユ:「妹ばっかり可愛がられてた」とか、「兄ばっかり褒められてた」とか。
ナナ:子どもの頃って、親の扱いが世界の大部分だったりするからね。
リク:大人になってから考えるより、ずっと大きな意味を持ちそうです。
ミユ:例えばさ。お姉ちゃんには新しい服買ってあげるのに、自分はお下がりばっかりとか。
ミカコ:それだけなら家庭の事情もあるだろうけど、何をするにも毎回差をつけられたらね。
ナナ:「どうして私だけ」ってなるよ。
ミユ:で、親じゃなくてお姉ちゃんが嫌いになる。
ミカコ:そこなのよ。
ミカコがテーブルに肘をついた。
ミカコ:もちろん、兄弟本人に問題がある場合もあるよ。
ミユ:うん。
ミカコ:親に気に入られてるのを利用して偉そうにするとか。自分のほうが上だって見下してくるとか。
リク:そういう場合は、兄弟との問題でもありますね。
ミカコ:でも、そうじゃないなら。
ナナ:妹も子どもだったりするもんね。
ミカコ:そう。妹が「私だけ可愛がってください」って親にお願いしたわけじゃないかもしれない。
ミユ:ああ……。
ミカコ:なのに親に言えなかった不満を、全部妹に向けてたら、妹からしたら困るでしょ。
ワニオ:配った人と、受け取った人がいます。
ミユ:なにその言い方。
ワニオ:親が二人の子どもにお菓子を配ります。
ミユ:うん。
ワニオ:兄に三個。弟に一個。
ミユ:それは弟、嫌だね。
ワニオ:弟が兄に怒ります。
ナナ:まあ、子どもならそうなるかも。
ワニオ:でも、三個に決めたのは兄ではありません。
ミユ:配った親だ。
ワニオ:はい。
ミカコ:分かりやすいじゃない。
ワニオ:お菓子なので。
ミユ:お菓子だから分かりやすいわけじゃないよ。
リク:ただ、子どもの立場ではそこまで切り分けるのは難しいでしょうね。
ナナ:無理でしょ。「お母さんの配分に問題があります」なんて考えないよ。
ミユ:「お兄ちゃんだけずるい!」だよね。
ワニオ:はい。目の前に三個ありますから。
ミユ:お兄ちゃんの皿ばっかり見る。
ワニオ:配っている手は見ません。
ミユが少し黙った。
ミユ:……なんか、それ切ないね。
ナナ:うん。
ミユ:本当は「私にも同じくらいちょうだい」だったのに。
ミカコ:いつの間にか「あの子から取り上げて」になっちゃう。
リク:自分も愛されたかっただけなのに、兄弟に勝つことが目的になってしまうこともありそうです。
ミユ:それ、つらいなあ。
ナナ:しかも大人になっても続くんだよね。
ミユ:例えば?
ナナ:「妹が結婚したら親がすごく喜んだ」とか。「兄が家を買ったら親戚中に自慢してた」とか。
ミユ:あー……。
ナナ:昔から「自分よりあの子」って感じてた人なら、またかってなるでしょ。
ミカコ:兄弟の結婚が羨ましいんじゃなくて、親が喜んでる姿に傷ついてる可能性もある。
リク:何に嫉妬しているのか、自分でも分からなくなりそうですね。
ミユ:「妹は結婚してずるい」だと思ってたけど。
ナナ:本当は「私のことも同じくらい喜んでほしかった」かもしれない。
ミユ:全然違うね。
ワニオ:欲しいものを間違えると、解決しにくくなります。
ミユ:どういうこと?
ワニオ:親に認めてほしいのに、兄より高い年収を目指す。
ミユ:うん。
ワニオ:親に可愛がってほしいのに、妹より先に結婚しようとする。
ミユ:うん。
ワニオ:勝っても、欲しかったものが手に入るとは限りません。
少し、誰も話さなかった。
ミカコ:そうなのよね。
リク:兄弟に勝つことと、親から欲しかったものを受け取ることは別ですからね。
ナナ:しかも、もう大人になってたらさ。
ミユ:うん。
ナナ:親から欲しかったものが、今さら全部もらえるとは限らないじゃん。
ミユ:……それもキツい。
ナナ:キツいけどね。
ミカコ:そこは「親なんだから分かってもらおう」だけに賭けなくてもいいと思う。
ミユ:諦めるってこと?
ミカコ:そうじゃなくて、自分の人生まで親の採点待ちにしなくていいってこと。
リク:親との関係を見直したり、必要なら距離を取ったりすることも選択肢ですね。
ミカコ:そう。何歳になっても比較してくる親なら、まともに全部受け止めなくていい。
ナナ:「お兄ちゃんはもっと稼いでる」とか言われても。
ミカコ:知らんがな、でいいのよ。
ミユ:ミカコさん強い。
ミカコ:だって兄の給料で自分の人生決めるわけじゃないでしょ。
ミユ:たしかに。
ワニオ:兄が月収一万円上がっても、自分の月収は下がりません。
ミユ:急に数字で来た。
ワニオ:妹が褒められても、自分の能力は減りません。
ナナ:理屈ではそうなんだけどね。
ワニオ:はい。人間は理屈だけでは動きません。
ミユ:分かってるじゃん。
ワニオ:観察していますから。
ミユ:人間を。
ワニオ:はい。
ミユ:いつものやつね。
兄弟への嫉妬のすべてが、親のせいとは限らない。
兄弟本人との関係に問題があることも、自分の中の競争心から始まることもある。
けれど、「あの子ばかり可愛がられていた」という痛みがあるなら、一度考えてみてもいい。
本当に欲しかったのは、兄弟が持っているものだったのか。
それとも、自分も認めてほしかったのか。
自分も褒めてほしかったのか。
自分も同じように愛してほしかったのか。
兄弟に向けていた嫉妬の奥に、自分がずっと欲しかったものが隠れていることもある。
ミユ:じゃあ最後はさ。
ナナ:うん。
ミユ:結局どうしたらいいんだろうね。
ミカコ:何が?
ミユ:兄弟を見るたびに「負けてる」って思っちゃう人。
リク:そこですね。
ミユ:原因が分かったとしても、明日から急に嫉妬しなくなるわけじゃないでしょ?
ワニオ:ならないでしょうね。
ミユ:即答。
ワニオ:でも。
ミユ:でも?
ワニオ:兄弟に勝つ必要があるのかは、考えられます。
ナナ:ああ。
ワニオ:勝ったら、何か終わるんですか。
その問いに、ナナは少し考え込んだ。
兄弟に勝たなくても、自分の人生は負けじゃない

ナナ:……終わらないね。
ミユ:何が?
ナナ:兄弟に勝っても。
ワニオ:はい。
ナナ:例えば私がネネより何かで上になったとして、「よし、これで姉妹対決終了!」とはならない。
ミユ:まあ、次の種目が始まりそう。
ミカコ:種目って。
ミユ:学歴で勝った。次、年収。年収で勝った。次、結婚。結婚した。次、家。
リク:終わりがないですね。
ミユ:そのうち「老後が充実してるのはどっち」とか。
ナナ:嫌すぎる。
ワニオ:かなり長い大会です。
ミユ:人生全部使ってるじゃん。
ミカコ:しかも勝手に開催してるのよね。
ワニオ:相手が参加していない場合もあります。
ナナ:それ一番虚しいやつ。
ミユ:こっちは必死に競ってるのに、妹は普通に晩ごはん食べてたりするんだ。
ワニオ:そういう可能性はあります。
ミカコ:だったら、どこかで大会から降りた方がいいのよ。
ミユ:でもさ、ミカコさん。それが簡単にできたら苦労しなくない?
ミカコ:もちろん。
ミユ:「今日から兄と比べません!」で終われるなら、とっくに終わってるよ。
リク:比べないように意識するほど、逆に気になってしまうこともありますしね。
ナナ:じゃあ、どうする?
ミカコ:私は、嫉妬しないようにする必要はないと思う。
ミユ:お。
ミカコ:嫉妬したら、「私いま何が羨ましいんだろう」って考える。
ミユ:何が羨ましいか。
ミカコ:そこを雑に「兄の全部」にしない。
リク:具体的にするんですね。
ミカコ:そう。兄の学歴が羨ましいなら、本当に欲しいのは学歴なのか。それとも周りから評価されていることなのか。
ナナ:妹が可愛いって言われるのが嫌なら。
ミカコ:自分も容姿を褒められたかったのかもしれない。
ミユ:弟が親に可愛がられてるのがムカつくなら。
ナナ:自分も親に見てほしかったのかもしれない。
ミユ:なるほどなあ。
リク:そこまで分かれば、兄弟との勝負ではなく、自分の問題として考えられることもありそうです。
ミユ:例えば「兄よりいい大学に行く」じゃなくて?
リク:自分が本当に勉強したいことがあるなら、そこを目指す。
ミカコ:妹より可愛くなる、じゃなくて、自分が納得できる見た目を作るとかね。
ナナ:兄より稼ぐ、じゃなくて、自分がどんな生活したいか考える。
ミユ:主語を兄弟から自分に戻す感じか。
ミカコ:そういうこと。
ワニオ:兄弟を基準にすると、兄弟が動くたびに基準も動きます。
ミユ:ああ、たしかに。
ワニオ:兄の年収が上がる。
ミユ:追いかける。
ワニオ:妹が結婚する。
ミユ:焦る。
ワニオ:弟が家を買う。
ミユ:家を探す。
ワニオ:忙しいですね。
ミユ:めちゃくちゃ忙しい。
ワニオ:兄弟の人生を追跡する仕事になります。
ミカコ:しかも給料出ないからね。
ナナ:やめた方がいい仕事だ。
兄弟を羨ましいと思ったとき。
その感情を、無理に消そうとしなくてもいい。
嫉妬は、自分が欲しかったものを教えてくれることもある。
認められたかった。
褒められたかった。
愛されたかった。
自信が欲しかった。
あるいは、本当に兄弟が持っている学歴や仕事、暮らしが欲しいのかもしれない。
だったら、それを兄弟から奪う必要はない。
自分の人生の中で、自分なりの方法で取りにいけばいい。
ミユ:でも、ずっと比較されてきた人は時間かかりそうだね。
ナナ:そりゃかかるよ。
ミユ:今日この話読んで、「はい、もう兄弟に嫉妬しません」にはならないよね。
ミカコ:ならなくていいでしょ。
ミユ:いいの?
ミカコ:何年もかけてできた感情なら、そんな一日で消えないって。
リク:まず「また比べてるな」と気づけるだけでも違うかもしれませんね。
ナナ:うん。「妹に負けてる」じゃなくて、「私いま妹と比べて落ち込んでる」って。
ミユ:ちょっと離れて見られる。
ワニオ:比較を禁止する必要はないと思います。
ミユ:なんで?
ワニオ:禁止すると、比較したときに失敗が一つ増えます。
ミユ:あ。
ワニオ:兄弟に嫉妬して落ち込む。
ミユ:うん。
ワニオ:さらに「比べないと決めたのに比べた」と落ち込む。
ナナ:二段構えだ。
ワニオ:あまり効率が良くありません。
ミユ:また効率で感情を考えてる。
ワニオ:一回でいいと思います。
ミユ:落ち込むのが?
ワニオ:はい。
ミユ:まあ……二回よりはいいか。
ミカコ:納得するんだ。
ナナが少し笑った。
ナナ:私さ、ネネと双子で良かったと思ってるよ。
ミユ:うん。
ナナ:でも、それと比べたことがあるかどうかは別。
ミユ:今日最初に言ってたね。
ナナ:うん。たぶんこれからも、何かで羨ましいって思うことあると思う。
ミカコ:それでいいんじゃない?
ナナ:そう思う。
ミユ:ネネさんがナナさんを羨ましいと思ってることもあるかもしれないしね。
ナナ:それはあるでしょ。
ミユ:急に自信満々。
ナナ:私にだっていいところあるわ。
ミカコ:そういう意味では健全ね。
リク:自分から見えている兄弟と、兄弟から見えている自分は違うんでしょうね。
ワニオ:自分が負けていると思っている競技で、相手は競技をしていないこともあります。
ミユ:また大会の話に戻った。
ワニオ:気になったので。
ナナ:じゃあ、ワニオ。
ワニオ:はい。
ナナ:結局、兄弟に嫉妬して苦しい人はどうしたらいいと思う?
ワニオは少し考えた。
ワニオ:兄弟に勝ったら、何か終わるんですか。
ナナ:……終わらないね。
ワニオ:では、ゴールではないのかもしれません。
ミユ:じゃあゴールは?
ワニオ:知りません。
ミユ:知らないんかい。
ワニオ:人によって違うので。
ミカコ:そこは急にちゃんとしてる。
ワニオ:ただ、自分の人生のゴールを兄弟に決めてもらう必要はないと思います。
兄弟より頭がいいか。
姉妹より可愛いか。
先に結婚したか。
たくさん稼いでいるか。
親に褒められたか。
長いあいだ兄弟と比べてきた人にとって、その競争から降りるのは簡単ではない。
それでも、兄弟が何を持っているかとは別に、自分がどう生きたいかを考えることはできる。
兄弟に嫉妬してしまう自分を、まず悪者にしなくていい。
嫉妬したら、その奥に何があるのかを少しだけ見てみる。
そして、兄弟ではなく自分のほうへ視線を戻していく。
兄弟の人生がうまくいっているからといって、自分の人生が失敗になるわけではない。
ミユ:よし。じゃあ私、ワニオが魚捕るの下手でも気にしないよ。
ワニオ:私は気にしています。
ミユ:まだカモと競ってるの?
ワニオ:次は勝ちます。
ナナ:今日の話、何だったのよ。
ミカコ:大会から降りる気ゼロじゃない。
ワニオ:これは別の大会です。
ミユ:大会増やすな。
兄弟との競争について考えていたはずなのに、最後はワニとカモの競争になった。
こいこと。編集部の座談会は、だいたい予定どおりには終わらない。


